東北地方の南に位置する福島県は、東北でありながら関東地方の文化も見られます。ですから地方によってさまざまな形式のある葬儀においても、独自のしきたりがあります。これを知らないと恥をかくどころか、人に迷惑をかけてしまうおそれもあります。葬儀は故人との別れをする大切な儀式ですし、遺族にとっても節目です。そこで迷惑をかけると人間関係にひびが入ってしまうかも知れません。そうならないために、福島県の葬儀のしきたりや風習を勉強しましょう。
前火葬と後火葬の地域があります
福島県の葬儀のしきたりで大きいのが、火葬のタイミングです。葬儀の前に火葬をする地域と、後に火葬をする地域があります。前者のことを前火葬、後者のことを後火葬といいますが、どちらもあるのが福島県です。こうなった原因は福島県がさまざまな藩が集まってできたからだと言われています。いわき市や会津など江戸幕府の支配下にあった地方は、関東地方と同じ後火葬です。一方、東北地方のしきたりが根強い地方では前火葬となっています。
注意してほしいのは、前火葬の場合は故人との最後のお別れを顔を見ながらできないことです。葬儀の時点ではすでにお骨になっていますから、事前に遺族に連絡して対面をお願いする必要があります。福島県の前火葬の地域は、通夜よりも前に火葬をします。同じ東北地方でも通夜と葬儀の間に行うところがあるため、混同しないようにしてください。多くの場合は通夜の火の午前中に火葬場に行き、お骨にしてもらいます。
訃報を伝える告げ人がいます
福島県全域ではありませんが、告げ人というしきたりがあります。これはお寺や近隣の人に、男性2人で死を伝えに行くものです。1人で行くのは良くないとされ、必ず2人1組で周ります。このしきたりは他の東北地方の県にも残っており、呼び方もさまざまです。わざふや角折と呼ぶ地方もあります。電話連絡が一般的でなかった時代の風習とされ、かつては行っていても現在は省略している地域も少なくないようです。家庭によっては告げ人をするのは菩提寺だけで、親類や近所には電話などで連絡する形とします。
注意が必要なのは年配の親類や近隣家庭でしょう。昔の感覚のまま生活している人ならば、告げ人でなく電話で連絡されたら、気分を悪くするおそれがあります。誤解されるのを避けるために、年配の人にだけは告げ人を使って伝えるのもいいかもしれません。何にせよ地域性が関係する話ですから、地域の葬儀事情に詳しい人に相談して決めるのが得策です。
副葬品として棺に剃刀やハサミを入れます
副葬品は、故人への思いとともに地域のしきたりの影響を受けます。一般的に入れられるものとしては、お花と食べ物、お金です。食べ物はおにぎりなどご飯を使ったのものが多く、あの世で食べ物に困らないように、という願いが込められています。お金も同じで、お金に困らないように三途の川を渡れるようにとの願いです。他には故人の好きだったものを入れることが多いです。スポーツ用品や楽器なども、火葬上問題ない範囲で入れられることがあります。
福島県では男性の故人に剃刀、女性の故人にハサミを入れるところがあります。これは湯灌で男性が髭を剃り、女性が髪を切る文化から派生したと考えられています。湯灌とは人が亡くなったあと、体をぬるま湯で清浄にする儀式です。一生懸命に生きた遺体についた苦しみや穢れを清める意味があります。地域によってはこのときに故人の髭や髪を処理してから、死に化粧をすることになっています。
玄関近くに仮門を作ることがあります
福島県の一部地域では、葬儀のとき玄関先や玄関の脇に、仮門を作ります。竹で作ることが多く、棺を出すときには仮門をくぐらせることになっています。これは故人が確実に旅立ち、戻ってこられないようにする意味合いがあります。ですからいつまでも仮門をそのままにしておくことはできません。葬儀が終了したらすぐに解体することになっています。農業が盛んな地域ではこの解体した竹などの材料を使って、火を焚きます。これはお盆の送り火と同じように、確実に送り出すことが狙いです。
知っている人も多いと思いますが、送り火は先祖の霊が来てくれたことに感謝する意味で焚きます。これよりも前の盆入りに迎え火を焚いて、先祖を迎え入れるのことになっています。具体的な日にちは地域によりますが、盆入りは8月13日、盆明けは8月16日が一般的です。東京を中心とした関東の一部ではお盆が1カ月早くなるところがあります。これを新盆、8月のほうを旧盆と呼びます。
まとめ
福島県では火葬を葬儀の前に行う地域と、後に行う地域があります。これは東北地方と関東地方、両方の影響を受けたエリアが存在するからです。訃報を伝える役目を負った告げ人がいます。必ず2人1組となっていて、電話がなかった時代から続くしきたりです。副葬品に剃刀あるいはハサミを入れる文化があります。湯灌で髭や髪を処理する文化から派生したしきたりだと考えられています。故人を送り出すために玄関近くに仮門を作ることがあります。